▼   ▼   ▼  広報コバヤシ (2003.08.26号)▼   ▼   ▼ 

☆炭を床下調湿材として使うことを再考する
<床下調湿材に寄せる過度な期待>

最近、住宅の床下調湿(除湿)剤として炭が大変なブームとなっている。
私の知見に照らし合わせると随分イメージが先行した過度な期待をされているように感じられる。
その理屈はこうである。

床下に炭を置いておけば床下空間の除湿(調湿)ができるということなのだが、床下空間は換気口などで開放されており、外気の影響を直接受ける環境であるので炭はあっという間に飽和状態になり除湿しなくなるはずだ。それを再度同じ吸湿性能で使いたいのであればシリカゲルと同じように加熱などして乾燥させる必要があるのではなかろうか。活性炭は脱臭剤としてよく使われるように、その吸着力はかなり高いというのは良く聞くが、床下調湿材として半永久的(?)に機能するというのは物理学的に破綻しているように感じられる。本当のところどうなのだろうか。

さっそく除湿材のメーカー「T加工」さんにメールで問い合わせてみた。突撃である。
当の炭のメーカーではおそらく科学的な説明が出来そうもないというこっちの勝手な判断で(ごめんなさい)シリカゲルの除湿材メーカーがその問い合わせ先である。以下はその回答。

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1)床下用の調湿について
 もとより調湿とは、人間や家の環境に最適な50〜60%に保つ事を指しますが シリカゲルや木炭(炭)・ゼオライト(天然鉱物)等にはポーラス(多孔質の穴)が有って、その大きさや細孔表面積は夫々違いますが、湿度が高くなると(60%以上)水分を吸着し湿度は低くなると(50%以下)吸着した水分を放出する性格を持っています。またそれぞれの水分吸着能力はおおよそ以下のとおりです。

   シリカゲル 73%   炭 約15〜20%  ゼオライト 16〜25%

 これは自重に対する割合なので、それぞれ1Kg有ったとしてシリカゲル730cc、炭150〜200cc、ゼオライト160〜250ccの水分を吸着はいたします。炭も効果が無いわけではありませんが、シリカゲルに比べると相当に吸水量は落ちます。当社の製品では 1坪に対し10Kgを標準使用量として1坪で約7.3Lの水分を吸水する能力がある訳です。予め床下の防湿土間コンクリート工事などの防湿処理をしていただければ、床下換気口より空気の流入があつたとしても、相当量の水分吸着をする事が出来、家の保全に役立つと考えております。また換気口がありませんと、乾燥した新鮮な空気が床下に流れず水分を放出できなくなります。
 さらに理想的なのは床下強制換気扇等で、外気乾燥時には床下に新鮮な空気を通す工夫があればより効果的だと考えております。

2)シリカゲルについて
 弊社の床下用シリカゲルは一般に知られているお菓子や金属の防錆用とは種類が異なり(お菓子等用はA型。住宅用はB型)空気が乾燥すると、吸着した水分を放出します。詳しくは弊社httpの吸着グラフをご参照ください。
 従いまして問い合わせの内容のように強制的に熱を掛けなくとも 再生は可能となります。

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うーん、そうですか。なんか思いもよらず、勉強になったな。
シリカゲルの原料は地球の地殻の6割を占めるという珪素(けいそ)。酸素と化学的に化合させて出来るのが二酸化ケイ素でこれがシリカゲルである。工場で製品化されるので消費者意識からすれば自然素材とは言わないのだろうが、人に対して毒性はまったくなく、化学的にも安定しており熱や湿気、また経年変化によって変質することもない。「炭」のように品質のばらつきも少なく、その点では表示通りの効果を期待できるといっていいだろう。しかしながら性能面でいかに優れていようと時代のキーワードである「自然素材」ではないのである。シリカゲルが普及しにくいのはやはり悲しいかな価格がものを言うということか。それにしても我々は「炭」のもつイメージに惑わされている可能性が高いかもしれない。

さて、こちらの質問の意図とメーカーの回答は微妙にずれている。さらに突っ込んでみよう。

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シリカゲルと炭の吸着性能の違いは良く分かりました。
床下に防湿コンクリートを打設し、1坪当たり10kgのシリカゲルを敷きつめたと仮定した場合、1坪当たり7.3リットルの除湿が見込めるとのことですね。
さて、この状態で今夏のように多雨が続いた場合、床下の除湿剤はどんどん水分を吸収します。外部換気口から新鮮な湿った空気はどんどん流入するので、シリカゲルは飽和状態になるまでは空気中の水分を吸着すると思います。理論値として7.3リットル吸着しつくすと平衡状態となり限界に達っするわけです。
そこで質問。さらに雨が続いた場合、それより先はやはり除湿しないのでしょうね?

やっと雨が上がり気温も上昇して湿度が下がったとします。
相対湿度50%をきりシリカゲルは湿気を放出します。7.3リットル出すとは考えられないのでやはりその時の状況に見合った条件で平衡状態になるまでは放出すると考えられます。
これをもって「再生」といえるかどうかは疑問ですが、以上のような理由で当初のような吸着性能に復元するとは考えられず、除湿剤としてのその性能は急激に低下すると考えて良いでしょうか?

それをクリアーするにはおっしゃるように乾燥時の強制換気が不可欠であると私も思います。
さらに外部湿潤時には湿気が床下に入らないようダンパー等で気密化する事が出来ればかなり完成度の高いシステムが出来上がるように思いました。どうでしょう?

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以下メーカー様の回答

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    ご連絡いただきましてありがとうございます。
    ご指摘の件ですが以下のとおりご回答いたします。

1)シリカゲルの平衡状態(飽和状態)からそれ以上吸着はいたしません。従いましてご指摘のとおり外気より湿度の流入があれば、環境は高湿に移行してゆきます。

2)放出の能力の問題ですが、その環境(湿度)の経時時間により放出量が変わります。つまり45%で環境が相当時間変わらなければ放出量はドンドン減ってゆきます。但しご指摘のとおり100%の絶乾状態にはなりません。

3)環境下の変化により(湿度の変化)稼動する換気システムが有ればベストだとおもいます。その環境(場所)の状態にもよりますでしょうが、空気を床下に通す事はシリカゲル等の調湿剤を使わなくとも、効果が期待できる方法です。まず空気の流通が多くある事。そして効果の高い吸着剤を使用することがベストと考えます。
以上ご連絡申し上げます。

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快く回答をしてくれた「T加工」さんにここで改めて御礼申し上げたい。もしこの記事を読んで実名とアドレスを公開してもよいということであれば連絡お願いします。ちなみに現段階でこのやり取りを記事化する了解は得ていない。

除湿性能に関する「炭」に対しての評価は記事中の「シリカゲル」を「炭」に置き換えればそのまま通用する。
他にも炭に対し過度の期待をしがちなのだが参考までに続けよう。

<炭をもっとよく知ろう>

以下は、京都大学今村祐嗣(ゆうじ)教授の講演を参考にした大阪金属加工株式会社(OKK)のホームページ「OKKだより」2001.4号記事から引用させてもらいました。
http://member.nifty.ne.jp/okk/


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 木は、炭素・酸素・水素および微量のミネラルからできています。木材を空気から遮断して蒸し焼きにすると、温度が上昇するにつれて揮発成分の酸素や水素が飛んでいき、炭素の比率が増えてきます。2000℃以上になると、ほぼ100%炭素の黒鉛(グラファイト)です。これに圧力をかければ、理論的にはダイヤモンドになります。

 木にはもともと無数の穴が開いています。さらにその細胞壁に囲まれた無数の小部屋があり、それらの仕切りにも無数の小さな穴があります。炭になってもこうした構造は残りますし、熱によって穴が大幅に増え、通水性や通気性が非常によくなります。これらの穴に有害物質が捕まるわけです。
 ここで問題になるのが焼成温度。1000℃をかなり超えると、表面積が小さくなりますので、吸着力を持たせるには、備長炭のように高温で水蒸気をかけて反応を起こさせます。
 NOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)、ホルマリンなどを除去し、空気を浄化するには、600〜800℃で焼いた炭がいいそうです。水中の水銀やカドミウム、鉛、砒素など重金属の除去には、800〜1000℃がお勧め。このほか、生け花の水に炭を入れると水が腐らず、臭くなりません。生け花から出る成分で繁殖するバクテリアを穴の中に閉じ込め、周囲の水をきれいにするためです。生け花も長持ちします。水や空気の浄化には、高級な備長炭を使わなくても竹炭など普通の黒炭(中温炭)で十分だそうです。

 炭が有害物質を吸着するメカニズムとして、穴のほかに化学的吸着作用もあります。木材はもともと酸性。焼成温度が上がるにつれてアルカリ性に変化します。この酸−アルカリ反応のため、低温炭ではアルカリを吸着しやすく、備長炭のような高温炭では酸をよく吸着します。また、炭に存在する大小の穴に住んでいる微生物が、有害物質を分解します。

 炭は恒久的に使える優れた吸湿材です。水分や熱などを一旦吸着しても再び放散します。床下の調湿剤としても有効で、高湿度を好むカビ、腐朽菌、シロアリの発生を防ぎます。木炭の低い熱伝導性も床下の結露防止に効果を発揮します。床下調湿材には、500〜600℃で焼成した炭を粉砕して用います。

 炭を部屋の隅々に置くと、マイナスイオンを出して健康にいいと言われているのは少々まゆつば。備長炭のような高温炭は電磁波を遮蔽しますが、電磁波から炭めがけて飛び込んで行くわけではありません。部屋においただけでは、電磁波対策になりません。ただし、空気の浄化や脱臭には効果があります。水道水に炭を入れると、カルキ臭やトリハロメタンなど有害物質を吸着して有害イオンをとると同時に、わずかに含まれるミネラルが溶け出し、酸性の水がアルカリ性になります。なお、トリハロメタンは熱湯を通して凝集させ天日で干すなど、熱をかけないととれません。1週間に1度くらいはこの処理を実施すること。炭の吸着力には限度がありますので、適宜新しい炭に代える必要があります。

 炭を入れてご飯を炊くと、ミネラルが溶け出しおいしくなります。古い米についた匂いが吸着され、味もよくなります。遠赤外効果で芯までふっくら炊けておいしくなるというのは、いささか疑問。黒いままの炭ではあまり遠赤外線は期待できません。ただし、色の違いにより若干は出る可能性もあります。備長炭のように高温で焼いた炭は、火持ちがよくガス成分がほとんどありませんから臭いがつきません。うなぎの蒲焼や焼き鳥など、直火でじっくり焼き上げる料理には最適です。

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<シロアリ対策として炭は有効か?>

シロアリの記述に関して少し補足しておこう

日本のシロアリには主要には2種類あって、北海道を除く全国にいるヤマトシロアリと暖地にいるイエシロアリがある。イエシロアリはだんだん北上しており最近では、神奈川県下でも生息・被害が確認されている。静岡県下ではその両方が生息していると考えてよい。
ヤマトシロアリは比較的低温にも耐え、塊状の巣は作らず、食害ヶ所が巣をかねている場合が多い。
床下の湿気により木が腐っている場合など腐朽菌の発する物質がヤマトシロアリに対して誘因作用があるので床下の除湿はシロアリ対策として有効。
一方イエシロアリは温暖な海岸線に主に生息、建物や地下に大きなコロニー(巣)を作る。
加害の速度は速く、被害はシロアリの種類の中でもっとも激しく激烈。蟻道を作って水を運ぶ能力があり二階から屋根裏まで激しく食害するケースもある。湿気のあるなしは全然関係なくて、床下の除湿をしてもまったく関係ないという。

<マイナスイオン、遠赤外線?本当なの?>

マイナスイオン遠赤外線などについては次のホームページの一読をぜひ薦める。知的興奮を味わえる最高のサイトだ。いかに我々がデタラメに踊らされているかということ。サイト運営は安井至(やすいいたる)現職:東京大学生産技術研究所・教授である。 


市民のための環境学ガイド

同サイト中、マイナスイオンに関する記事 http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/MinusIonAgain.htm
同サイト中、遠赤外線に関する記事 http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/FarIRPhysics.htm
 

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